ティファニーの店舗を初めて見たのは、2014年の3月のことだった。大学の入学式のスーツを買うために、母と2人であべのハルカスに行った時のことだった。
「懐かしいわぁ、昔はよくここで買い物したし新人時代に浴衣もここで買ったんよ。まさか娘のスーツを買いにここに来ることになるとは」
と母はニコニコしていた。思い出の場所で娘との思い出を増やすことができるのがよほど嬉しかったのだろう。その日の母は本当に楽しそうだった。
近鉄阿部野橋の改札をぬけて目の前に、あべのハルカス近鉄本店の入り口がある。2階にあたるそこは、ハイブランドやジュエリーのフロアだ。キラキラとしたジュエリーたちをよそに前をゆく母を、私は必死で追った。その時、とある店の看板を視界の端で捉えた。なにかが光った気がする、と。思わず振り返った。
TIFFANY&Co.と書かれた薄いブルーの店舗が後ろにあった。
おそらく目に入ったのは、店舗の入り口の両側にあるディスプレイの銀の枠である。照明が反射がたまたま視界を捉えたのだ。私はこの時まで百貨店に行くことに縁がなく、ティファニーの店舗を見たのはこれが初めてだった。
「え、お母さんあれってティファニー?あれがあのティファニー?」
「何言ってんのほらこっち」
母は早く娘のスーツを見たいのか駆け足気味だった。私は後ろ髪を引かれながらもそのまま笑顔の母について行った。
あの綺麗なディスプレイをもう一度見たいと思ったのをよそにその日の買い物は終了し、別の出口からハルカスを出てそのまま天王寺をあちこち歩いて、近鉄で帰ったので私はその日はティファニーをもう一度眺めることはできなかった。
大学に入学してから何度もあべのハルカスに行ったが、ティファニーの前は初めて見たあの春の日と同じように、素通りするか、ジュエリーが飾られたディスプレイを眺めるだけだった。それで精一杯だった。
ティファニーの店舗にいるお客さんはだいたいカップルであり、女性1人のお客さんでもとにかく美しい人が多く見えた。ある時のディスプレイがあまりにも美しくて、ほぉぉ…と眺める横をハイヒールのふわふわロングヘアの女性が通って行った。その女性が通った後は甘い香りがした。やはり、ティファニーにのような店に入れるのはあのような選ばれた人だ、と思いながらその場を後にした。
……もし、素敵な女性になれたら。もし、結婚することができたら。このお店に入ろうと思う日が来るだろうか。
大学1年の冬、そう思いながらクリスマスジュエリーのディスプレイを穴が開くほど見つめていた。
あれから8年が経った。結婚する気配もなければ素敵な女性になれた気もしないが、私は今日あべのハルカスのティファニーに向かった。残念ながらルートの金額の都合上、JRに乗った。551の蓬莱の匂いがお腹を刺激する天王寺駅の階段を登り、いつもより少し高めのヒールであべのハルカスに向かった。
きっかけは1週間と2日前のこと。妙に寝付けずベットをゴロゴロしていた私は、Twitterを見ようとスマホを開いた。そして、ぐえっと声が出た。たぶん人が聞いたらカエルを踏み潰したみたいな声と言われたと思う。
スポーツ新聞の記事の早バレがそこに表示されている。
『Snow Man×ティファニー』と見出しに大きく書かれている。メンバーが黒いスーツにはアクセサリーを身につけている写真もある。いやマジかよ、と乾いた笑い声を出しながら私は枕に突っ伏した。瞬時に記憶に蘇ったのは、ドキドキしながら見守ったavexのホームページだ。
2021年の夏。突然Snow Manのavexのホームページのトップの写真が更新された。メンバーが3人ずつ、3日間。そしてメンバーは共通してティファニーのアクセサリーをつけていた。
『おいおいなんでティファニーつけてるのよ怖いよまさかコラボとかじゃないよな』と震え上がっていた。デビューしてすぐ最年少のラウールがDiorのリップのCMに出て、ラウールモデルのリップも発売されたことは記憶に新しい。いやまさかそんな、でも…とドキドキしてたらファーストアルバムの発売決定だった。いや、よかった。よかったよティファニーとのコラボじゃなくて。ていうかファーストアルバムほんと嬉しい!でも衣装でティファニー着用はえぐいて運営!!と思ったのだが。
それからしばらくして、メンバーがつけていたティファニーのアクセサリーを買うファンが現れ始めた。スノ担は財力がある、札束で殴るタイプのオタクが多い、というのはなんとなく分かっていた(言い方)。まさかティファニー買う人いるとは…いやわかるよ素敵だもんよ…。私の自担はカフスボタンをつけていたので、残念ながら買うことは難しかった。そのカフスボタンによく似たイヤリングを見つけて買ってしまったが。なお300円だった。ありがとうLattice。
なおメンバーにティファニー大好きな深澤辰哉さんがいるので、定期的にティファニーの情報は流れてきていた。
いいなあ、ティファニー、いつか私も行ってみたい。でも独り身だしぶっちゃけ一生独身な気がするからほんと行くことはないだろな。でもダイヤの一粒のネックレスは…欲しいんだよなあ…。でもティファニー高いしなぁ…あと1人であの店舗行くの怖い…なんて考えていた。
そんな一年を過ごしてまさか、まさかだった。本当に自担たちがティファニーのアンバサダーになる日が来るとは。1年前の自分におっそろしい未来が来るぞと教えてあげたい。
そして朝になり、情報が解禁されて数時間。メンバーがつけているティファニーの値段にも震え上がることになった。アンバサダー、さすがすぎる。1人1人の合計金額でも私の年収をはるかに超える金額だった。ていうか自担の目黒蓮に至っては1000万超えてた。誰かがマンション買えると言ってたがまじでマンションの金額だ。ラウールもマンションっぽいけど。いやみんなえぐいんだけど。
Snow Manメンバーが着用してるアクセサリーで1番身につけたいと思ったのは康二くんがつけてるティファニーノットのネックレスだった。リングも大変可愛らしい。あ、いいな。と思って値段を見た。
か、か、可愛くねえ…さすがティファニー様…。
なんて思いながらTwitterで検索をかければ、もう数人の方がティファニーのアクセサリーを購入されていた(なお今の時点でTwitterだけで確認できるのは50人を超えている)。皆様流石です…と思いながら日付を見ると、自分の誕生日が迫っていることに気づいた。
2年前の誕生日、この世で1番好きだった人と別れた。大学1年から6年の交際だった。いつか結婚するかもしれない、と思った人だった。
別れを切り出したのは自分なのだけれど。色々と、ほんとに色々とあって、別れを選んだ。結果的には別れてよかったと思っている。でも、もう私はあの人よりも好きになれる人に出会えないのではないかとも思っている。
今でも1番好きなその人の横には、彼が好きそうな髪の短いボーイズライクな服の、可愛い女の子がいる。別れて半年が経った頃、たまたまインスタで流れてきたのは大好きだった彼と短い髪の女の子の後ろ姿だった。まだフォローを外してなかった自分のアホさ加減に大泣きした。よく髪を切ったら可愛いしもっと好きになれそうと言われてたな。髪の短い自分が想像つかなくて毎回笑って流していたことも思い出してまた泣いた。
そういや大学時代、いつか買えたらいいねぇなんて言いながら2人であのティファニーの前通ったんだよな…私はティファニーなんて!恐れ多い!!って返した気がする。憧れてるくせに。
ありがたいことに昨年は新たに彼氏(なおこの夏に別れて今は歴オタ読書オタ仲間だ)ができたが、お互い仕事が修羅場すぎて誕生日は会えなかった。私に至っては家に着いてから車から降りるまで30分かかった。疲れすぎて運転して帰るのに精一杯だった。夕飯を食べる気力もなく、親が買ってきてくれたケーキは翌日の朝食になった。そういや昨年も食べる気しない…と思いながらケーキもさもさ食べたな…と悲しくなったのを覚えている。
……2020年以降誕生日、ろくなこと起きてねえな。よし、買おう。自分への誕生日プレゼントにティファニー買おう。指輪じゃなくてネックレス買おう。憧れのダイヤの一粒ネックレス。
エルサ・ペレッティ バイザヤードを!
そう決めてティファニーを愛用されてる相互さんに購入の相談に乗っていただいた数日後、
オリックス・バファローズの日本シリーズ優勝が決まった。
お?これは近鉄セールくるな?思ってたら、相談した相互さんからちょっと頑張れば手の届くラインのアクセサリーの在庫が枯れ始めているとのことを子教えていただいた。え、誕生日待ってたら在庫やばいんじゃないの。
……行くしかない、今週!ていうか在庫あるうちに早く!!と大好きなブランド、ダブルチャカのリトルブラックドレスを着ていつもよりも丁寧に化粧をし、向かった。
憧れのティファニーの店舗のディスプレイ。今回のキラキラと美しいジュエリーはハードウェアだった。
ドキドキしながらアルコール消毒をし、店舗に入る。私の前にいたのは幸せそうなカップルだった。……というかやっぱりカップルが多い。女性1人の客は私のみだった。
「何かお探しですか?」と黒いスーツの上品な店員さんが話しかけてくださった。
「ダイヤの一粒ネックレスを探してて」
「ありがとうございます、ダイヤモンドのネックレスは店の1番奥になります。他にもたくさんございますので、どうぞごゆっくり」
そう促されてショーケースをゆっくりと見ながら奥に向かう。あぁやっぱティファニーノット可愛い…お値段可愛くない…うぉおハードウェアだぁ…かっこええ…と心の中で思いながら。
途中でふかふかの絨毯に足が沈み、さらに胸の音が大きくなる。
店内の1番奥のショーケースに、ソリティアダイヤモンドペンダントとバイザヤードがあった。
「何かお探しですか」
バイザヤードのショーケースのそばでお仕事されていた店員さんが話しかけてくださり、バイザヤードの購入を考えていることを話して商品を見せていただいた。
ショーケースの中で輝きを放つダイヤモンド。小さくてもめちゃくちゃ綺麗だけど、できたらちょっと大きめがいいなとか考えながら実際につけさせていただいた。ローズゴールドはとても肌馴染みがよくてカジュアルに使えそう。ゴールドはゴールドで美しい。でもやはりプラチナも美しい。
そしてダイヤモンドって存在感めっちゃあるんだな…すごい…。
「ローズゴールドだと肌馴染みがすごくいいですね」
「カジュアルにつけるならローズゴールドですね。フォーマルな場ではプラチナの方がよろしいかと」
店員さんにつけて頂きながら、考えに考えて。
プラチナのバイザヤードを購入しました。
「お客様の肌にも映えますし、ほどよく存在感を放って長く使えるタイプだと思いますよ」と店員さんにも後押ししていただいた。
何歳になってもつけれそうな一粒ダイヤのネックレス。ずっと憧れてた、あのティファニーで買える日が来るとは。
個人的な話だが、私はハイブランドやジュエリーなどを眺めるのは好きだし欲しいなと思っているものもある。でも、店舗に行くのは怖い。
ネットで購入する手もあるけど、ネットで購入して思ったより色が濃いなとか、なんか違ったな、となるのも嫌だ。でも、店舗に行くのが怖い。
もともとブランドものと縁のない人生を送ってきたこともあって、今でもデパートで買い物をする時、特に憧れのブランドほど緊張してなかなか入れなかった。あと結構変なところに物をひっかけてしまう人間なので、不意に当たって商品落としたら怖いとか、他にもいろいろあった。
ほんとに好きなら行けるでしょと言われそうだが、私の場合ほんとに素敵だと思うから行けないのだ。臆病なことに。言い訳でしかないけれど。
憧れのティファニーの店舗に入る勇気が欲しかった。後押しをしてくれたのは、Snow Manだった。
ティファニーに似合う女性にはまだ程遠いし、大学時代に思い描いていた自分とは全然違うけれども。
少なくとも今年の誕生日は、笑って過ごせるような気がする。
………のだけどこのバイザヤードを買った後にちょっと、ちょっとだけセール何やってるか見に行こうとかなとハルカス内をぐるっとしたんですよ。もうね、ほんとに人混みがえげつなくて人が少ないところ歩いてたら、サマンサタバサでずっと探してた感じの黒のショルダーバッグに出会ってしまいました。500のペットボトルが横にして入るくらいの黒のショルダー探してたんですよ…。
え、可愛い。え、2BUY15パーオフ?え、あ、ミニ財布も可愛い…。
誕生日、今の時点で実は修羅場が確定してるのでティファニーつけてニコニコ頑張ります!働くぞ!!