七竈の食器棚

徒然なるものを竃につめこんで。

友人のためにメイクする〜『だから私はメイクする』を読んで〜

「七竃さんほんま美人。」


あぁ、私のメイクはこのためだと改めて実感した。彼女のためというよりは、彼女に褒められるためか……。一気に体温が上がりふわふわとした感覚になる。それと同時に先日買った本の中に出てきた女たちが私の頭をかすめていく。






  ちょうど二週間前、私は本屋を駆けずり回っていた。私のここ最近推してるサークル「劇団雌猫」さんが10月に怒涛の勢いで新刊を出されたのだ。サークルと書いているがどれも商業作品である。どこもかしこも駆逐され、梅田の蔦屋書店に至っては劇団雌猫作品はまるまる在庫なしになっていた。ちなみに天王寺ジュンク堂もである。大型書店なのにと戦慄した。これからは予約したほうがいいと実感した。これ最近のJUMPのCDでも言ってた気がする。


なんとか手に入った新刊のラインナップはこちら。

・  昨年夏に発売されてヒットした『浪費図鑑』の第2弾『シン・浪費図鑑』

・『浪費図鑑』のマンガ版『まんが浪費図鑑』

・劇団雌猫さんが昨年5月に発行した同人誌『悪友DX 美意識』を書籍化した『だから私はメイクする〜悪友たちの美意識調査〜』


シン・浪費図鑑 (コミックス単行本)

シン・浪費図鑑 (コミックス単行本)

まんが浪費図鑑 (コミックス単行本)

まんが浪費図鑑 (コミックス単行本)

だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査

だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査




どの本も大変面白いものだった。いやホントこんな面白いもの読ませていただいてありがとうございます。


  知らない方のために説明すると、劇団雌猫さんというのは、オタク女性4人から成るサークルである。2016年冬に様々なジャンルのオタク女性の浪費話をインターネットで集めた同人誌『悪友 vol.1 〜浪費〜』が話題になり、それは先述した『浪費図鑑』として昨年発売されヒット。

浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)

浪費図鑑―悪友たちのないしょ話― (コミックス単行本)



今ではインターネットでもリアルでもなかなか言えない様々な話を同人誌『悪友』シリーズとして発行する傍ら、


・日々の趣味と仕事を両立事情を聞く「オタ女子おしごと百科」

・オタク向けの街選びアドバイスをスーモに聞く「オタ女子街図鑑」


を連載中。時たま「she is」という女性向けライフ・カルチャーサイトにも寄稿している。改めてめっちゃ活躍なさってるな劇団雌猫さん。





さて今回読んだ新刊の中で、とにかく繰り返し読んでいるものがある。夜寝る前、勤務開始前、そのページを開く。


『だから私はメイクする』だ。


  先ほども書いたが、これは「悪友DX 美意識」という同人誌を書籍化したものである。「美意識」は、コスメ、メイク、ダイエットなどオシャレすることについてそれぞれ語ってもらった話を集めた本である。商業化した「だから私はメイクする」は「美意識」に掲載されていた話に加えて新しい話も掲載され、大変興味深いラインナップだ。

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あだ名が「叶美香」!?指先ファンタジーってなんかかわいい!!てか芸能人と働いてる!?ドバイで奮闘……?


目次からして様々な美意識が語られているが、私が特に共感したのが「会社では擬態する女」だった。よく寝る前に読んでいる。ネタバレを避けるためあまり多くは語らないが、私も職場では擬態しているに近い。仕事の後用がある際は朝から気合が入ってあまり擬態できていないが、そういう時に同期に遭遇するのは大変最悪である。そのため寝る前に「明日もしっかり戦うぞ」と戦意を新たにするために読む。

次に共感した「仕事のために○○する女」は職場で読むことが多い。特に仕事の開始30分前。読み終えるとよっしゃやったるで、しっかり仕事をこなしてみせるで、と気持ちを切り替えて仕事ができる気がするからだ。





  さて、冒頭で私はある女性に褒められていた。言葉から察してくれているだろうが、「顔」をである。


私はどうやら、世間から見たら「美人」であるらしい。らしいというのは、最近自覚してきたのと、まだ信じられないところがあるからだ。

というのも私は小中と周りからブス扱いされていたのだ。スクールカーストも最下位。仲のいい友人も少なく、学校は軍隊学校と揶揄されるほど厳しく、親も厳しく……とストレス発散できる場もなかったため、日々の不満が顔に出ていたからであろうなと今になってみれば思う。ストレスから解放されたタイミングと化粧を覚える機会が重なり、私は美人と周りに褒められることが増えた。冒頭の彼女はその初期に出会った友人だ。ちなみに彼女は私がまだ出会う前から私のことを知っていたらしい。


「図書室に行ったらめっちゃ美人がいたのを覚えてる」


すまんいつかわからない。私は図書室に毎日行ってたからどこで彼女とスレ違ったのかさっぱりである。

彼女と仲良くなるのは彼女が私を認識したずっと後である。たまたま部活で出会ったと思っていたが違ったらしいと高校卒業のタイミングで知った。まだこの頃私は「美人」と言われてもお世辞だと思っていた。


どうやら違うらしいと知ったのは大学の時だ。大学のリア充系女子に「顔がめっちゃ好み」「一回がっつり化粧させて。絶対とんでもない美人になる」「七竃の顔めっちゃ好きでつい眺めてしまう」などと言われるようになった。これはそれぞれ別の人たちに言われたことである。この頃もまだお世辞だと思っていたが、何度も別の人に言われることが増えるとふと思うようになり大学の友人に恐る恐る「私って美人なのか?」と聞いた。


「私が今まで会ったなかでは最高レベル」


真顔で言われた。そんな彼女も女優帽が似合う壇蜜系美人である。


それでもわからなかった。いやいやそんなことないと自分に生まれた思いを打ち消していた。


冒頭の彼女は、今でも私が休日に会う友人の中で一番会うことが多い。そして会うたびに冒頭のように、褒めてくれる。


私のことを褒めてくれた友人は、彼女が最初だった。最初に言われた時はお世辞だと本気で思っていた。嬉しかったが、中学時代に学年一の美女と言われた同級生の取り巻きたちに「ブスだから近づくな」「あんたとこの子は世界が違う」と言われた思い出がよぎり、そんなわけがない、私が美人なわけがないと思った。その同級生とは家が近くて、たまに登校途中に見かけることがあった。その度にどこからこうなってしまったのだろう、ほんとの昔にはあの子と一緒に帰ることも、話すこともあったのに、と苦しくなった。今はもう話しかけることもできない、許されないのだ私は。

「そんなことないよー、ブスよ私ー」と、彼女にやっと返した気がする。褒めてくれた彼女は「いやいやそんなことないー」と言った。私は必死で自分が美人であることを否定した。だって私の中で美人と称されていいのは、その同級生だったから。


地元で刷り込まれた呪いが解け始めたのは、彼女が何度も言ってくれた「七竃さんは綺麗」「七竃さんは美人」だった。親に言われても親が言ってくれることだし、と流していた。言われて嬉しかったし、相変わらずどう返していいかわからないけど彼女の前では「そんなことない」と否定することはなくなっていった。代わりに「ありがとう」と言うようになった。


彼女に「ありがとう」と言えるようになった頃、ようやく私は周りからの褒められる言葉を素直に受け入れられるようになった。メイクが楽しくなり、オシャレも楽しくなった。そして褒められることも増えた。



反面、厄介な男性に出会うことも増えた。お前らはお呼びではない。何が悲しくてアニメイト前でナンパされねばならないんだ。何が悲しくてデレステフルコンボ狙ってたらナンパ目的の男にイヤホン耳から引っこ抜かれねばならないんだ。 



話がそれたが、美人と少しずつ思えるようになってから、私は友人に会う日はとにかく気合を入れてメイクするようになった。彼女に「綺麗」と言われたい。一番綺麗な状態で彼女に会いたいと思うようになった。だから彼女に会う前日は丁寧にムダ毛処理をし、朝は家を出る二時間前に起きてメイクとヘアアレンジをする。


普通彼氏に会う日にやることじゃないか?と思うだろう。自分でもそう思う。彼氏に会うときもこんな感じだがメイクは彼女に会う時より薄めである。よし最高に美人だ!とかなりメイクが上手くいったデートで、「もっと薄い方が好きだ」と言われてしまったのだ。だからおそらく、私は友人と会う時の方が彼氏に会う時より自分の中では美人である。(それもそれでどうなんだ……)


  他にも「七竃は美人」と言ってくれる人はいる。でも、その中でも彼女に褒められるのはとても嬉しいのだ。一番最初に褒めてくれたから、というのもあるだろうけど、やっぱり会うたびに言ってくれるというのが大きいかもしれない。彼女に褒められるたびに、本当に幸せな気持ちになるのだ。今までブスと言われた記憶が全部飛ぶほど舞い上がる。高校時代に初めて言われた時はあんなに必死に否定したのに、今ではむしろ「でも私綺麗でしょ?」とわざとふると「癪に触るがちくしょう否定できねえ!!」と軽口で応酬するのが楽しい。なおこの応酬は毎回ではない。さすがに毎回ふったら嫌われる気がするから。


『だから私はメイクする』を読んでいる際、ずっと彼女の顔が頭に浮かんでいた。そして私は「私は自分と彼氏と友人のためにメイクしてる」と実感した。

自分のためにメイクするのは、

・一社会人のマナーを守ってますよアピール

・仕事でどうしても気分が上がらない時 。


彼氏のためにメイクするのは、

・好きな人の横で人から見て笑われるような格好をしたくない 

・彼に可愛いと思ってもらいたい  


でも一番大きいのはやはり友人のため。理由はもちろん。


・褒めてくれるから。


彼氏も、可愛くすると褒めてくれる。実際彼氏と友人に会う時にメイクする時間は変わらない。でも、比重でいうなら重要度は友人の方が大きいかも。と考えを整理している時、友人から共通の趣味に関するお誘いがあった。すぐオーケーをした。


冒頭に戻るが、やはり彼女は私を褒めてくれた。それに満足すると同時に、私はもうきっと褒められる快感から抜け出せないのだと思う。美人でいて当たり前にならないといけないと思い始めている自分がいる。当たり前ではないのに。上には上がいるし、芸能人になれるような美人ではない。でも、ずっと彼女に褒められる美人でありたいと私は思っている。これからも私は彼女に会うために綺麗なメイクをするだろう。仕事が変わっても、年を取っても、結婚しても、きっとそんな気がする。


次に彼女に会ったら言いたいことがある。「私を美人に変えてくれてありがとう」

今私が周りに美人と言われるのはあなたが最初に褒めてくれたからだ。あなたが褒め続けてくれたことで、私は変わることができました。そしてこれからも褒めてください。